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外面だけは昔から良かった。
大人へのお淑やかな態度と謙遜、同年代への控えめでいて適度な優しさ、年下への面倒見の良さ。


桜井 斗姫は昔から、人に好かれる術を持っていた。否応無く身に付けなければ貶められると知っていたし、そうやって貶められた人達を見てきた。


そして今、斗姫の前では成功者が幸せそうな笑顔を浮かべていた。
斗姫はそれを祝福の眼差しで見つめる役目をこなしている。そんな自分が滑稽すぎて自嘲の笑みが零れた。


そういば、彼と出会ったのも自分の滑稽さに嫌気が差していた時だった。所謂、優等生の桜井 斗姫は夜の街に繰り出してその危険な雰囲気に酔い痴れた。


自分には、こっち側の方が合う。
けれど向こう側にいなくてはいけない。そうする事が、桜井 斗姫の役目だから。


「……斗姫さん!?何してんスかこんなとこで!一人っスか?あ、ハヤミさんと待ち合わせっスか?」


思わぬ人物との遭遇に内心驚きながら、斗姫は彼に苦笑を浮かべる。相変わらずよく喋るなぁと思いながらも、そんな彼が嫌いではなかった。


「今晩は、コウタローくん。珍しいね、キミが一人でいるなんて。」


「キングに頼まれてた事終わらせた帰りなんスよね。徹夜だったんで、帰って寝ようと……あ、今からハヤミさんに会うんですよね?オレ、一緒に待ってるっスよ。」


「え、いいよ。それよりも、早く帰って身体休めなよ。」