桜井 斗姫は、俺と同い年の従妹だ。
口数が少なくて控えめなくせして、かなり頭が切れる策略家。他人に優しいように見えて実は色々考えている抜け目の無い女。


俺も斗姫の策略に何度も嵌ったから知っているが、彼奴はいつだって自分の不利益を避ける。いつだって、自分が正しくあろうとする。


それが滑稽だと言った俺を、斗姫は今までにないくらいの激昂と共に容赦のない言葉で罵った。お陰で俺は2週間は立ち直れなかった。


そんな斗姫が、あの桜井 斗姫が珍しく俺に相談事を持ちかけてきた。しかも恋愛相談だ。さずかの俺もヒビった。
驚いた様子の俺に、斗姫は顔を赤らめた。


『彼はきっと、遊びで私と付き合っているのかもしれない。でもね、彼なら私は変われるの。……やっと忘れられると思う。』


本当は忘れたくないくせに、忘れなければならない。あの頃、どんなに斗姫が頑張っていたか知っているし、実際に共犯でもある俺は斗姫の心の傷が見えている。


斗姫は、忘れられない。確信を持って言えるがそれを本人には言わない。
過去を振り切れずに足掻く斗姫を見るのも悪くはねぇか……。


そんな俺の不純な思惑すら見透かしていただろう桜井 斗姫は、とある頼み事を俺にしてきた。
……斗姫は多分、分かっていたんだと思う。


こうなることも全て分かっていて、彼奴を選んだんだ……。