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一人、溜まり場のマンションから出た香音は目の前でバイクに寄り掛かっている人物に目を丸くした。まさか、本当に来るとは思わなかっただけに、香音は足を止めた。


視線の先にいるのは、不健全な気持ちで付き合い出した彼が。煙草を吸う様になっている姿を眺めながら、香音はゆっくりと近寄る。


「…………今晩は、吾妻くん。」


香音にとって彼はとても分かりやすい存在だった。周りはよく吾妻を冷めていて気分屋だと言っているが、香音にしてみればそんなこともない。


しかし、怒っている事や機嫌が良いことは分かっても、それが何故なのかはさっぱり分からない。だからこそ、香音は吾妻を理解しきれないのだろう。


それと同様に、吾妻もまた香音の扱いに戸惑っているようにみえた。
初めて、香音は吾妻の彼女という今まで誰もなれない立場にいるのだから。


「…ごめんなさい、こんなところまで迎えに来てもらって。」


「………お前、これ乗れんの?」


会話が噛み合わないのも慣れた。
香音は吾妻のいうこれ、を見て何処か得意げに笑った。


「勿論ですよ。でないと、わざわざ吾妻くんに迎えなんて頼みません。」


「………いちいちムカつく言い方するよな、お前。」


「それはお互い様です。」


まるで恋人らしくもない会話だが、吾妻の口角は面白げに上がっていたし、香音も楽しげに笑っていた。
女に対して、冷徹なまでに突き放した態度をとる吾妻だが、こうして構うくらいには香音は特別らしい。