「吾妻くんには何も言ってません。……今日は、この子を此処の人達に見せびらかそうと思って来たんです。」
そう言って、香音ちゃんはわたしを前に引っ張った。そこで初めてわたしの存在を認識した男の人は、その優しげな目を少し見開いた。
凝視されて居た堪れない……。
困惑気味に香音ちゃんを見つめれば、面白いとばかりに微笑まれた。
こんな表情をする香音ちゃんは、きっと何か企んでいる。
嫌な予感は見事に的中した。
「この子は私の大事な親友の千聖です。…チサ、彼は優雨さん。年は私達より三つ上よ。」
優雨さん、は優しい笑みを浮かべて軽く頭を下げた。わたしも慌ててお辞儀をする。年上の人だとどうも緊張してしまう。
そのまま香音ちゃんとわたしは2階のフロアにある部屋に行き、ようやく安堵の息を漏らした。でもそれも一瞬の事で、部屋には他に二人のお客様がいた。
その二人の男の人は、香音ちゃんを見るなり目を丸くした。
二人の内の一人…スキンヘッドの厳つい感じの人は、すぐに呆れたような視線を香音ちゃんに向ける。
「勝手に来たんだろ。雄大のヤツにまたドヤされるぞ?」
「今回は個人的な理由ですから。…あ、この子は私の親友の千聖です。」
又もや紹介されて、わたしは再度お辞儀する。
スキンヘッドの男の人は、わたしを見てからニヤリと香音ちゃんに笑いかけた。
「…香音、本当に友達いたんだな。しかもこんな可愛い子。」
「失礼ですね、千二郎さん。駄目ですよ、チサは優雨さんのお気に入りになった子ですからね。」
「……は?あの優雨の?」
ギョッとしたような表情で、千二郎さんはわたしを食い入るように見つめる。まるで信じられないといった視線に、わたしはさらに縮こまった。
千二郎さんの向かい側に座っている、物静かな感じの男性も驚いたようにわたしを視線に捉える。
ただ、香音ちゃんだけは愉しそうに笑みを浮かべている。

