微かな彼女




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わたしは香音ちゃんの背中に隠れるようにして歩いていく。いつまで経っても慣れないであろうこの空間に怯えながら、それでもわたしは此処に来る。


それはきっと、此処では一瞬たりとも寂しくならないから。独りのわたしがいても否定されないから。


このCLUBは、香音ちゃんのお誘いで度々足を運ぶようになった。何でも、香音ちゃんの彼氏さんがこのCLUBの経営に携わっているらしく、よく此処で二人は会っているという。


香音ちゃんの彼氏さんは、わたしも知っている有名人だった。
吾妻 雄大さんの名前は周りから聞いていたし、彼の悪名とも言える噂も耳にしていた。


女性関係が派手な人だと思っていたし、実際にそうなのだろう。よく香音ちゃんが困ったように話してくれた。
昔、吾妻さんが遊んでいた女の人達に絡まれるから疲れる。そう言って、香音ちゃんは笑った。


だから、あまり良い印象を持っていなかっただけに、初めて会った時には驚いた。
CLUBに入るなり、視線を一身に集める香音ちゃんは怖がるわたしの手を引いて歩いていく。


いつもは吾妻さんが迎えに来るらしいけれど、今回は何の連絡もしていないらしい。清楚系美少女である香音ちゃんは、その外見と反してかなりの強者。


わたしはただ、香音ちゃんに引っ付いていた。


「……おぉ、香音ちゃんやん。雄大はおらんみたいだけど、一人で来たんか?」


おかしなイントネーションで話し掛けてきたのは、長身で爽やかで優しそうな男の人だった。香音ちゃんに隠れていて相手にはわたしが見えないみたい。


男の人は、左耳に三つと右耳に四つのピアスをしていて、まるでモデルさんみたいに人目を引く容赦だった。
それに、彼が来た途端に周囲の空気が激変したのを感じた。


羨望の視線が、彼に向けられる。
此処にいる人達に注目される彼は、一体何者なんだろう……。