『大した事じゃないけど…?』どう話せばいいか迷って少し言葉に詰まる。

少年は真剣な目であたしを見つめる。不覚にもドキドキしてる。


『友達と喧嘩しちゃって…ずっと口聞いてない。もうすぐクラス替えなのにさ…』

男子にとって喧嘩はきっと、日常茶飯事。でも、女子にとっては一大事。


うかつにも初対面にあっさり弱音を吐いてしまった。



『でも話したらスッキリ?みたいな。』妙な間は嫌だから沈黙を破る。ありがとは言えない。


『そりゃ良かった。あと、名前教えたじゃん。』

『そっか、天宮。』


『いや、晴樹でいいだろ。』


『はぁー?!』いつもの癖(?)で喧嘩腰になってしまった。急に呼べなんて言われても困る。


『別に、呼び名なんてなんでもいいけど?』


違う。本当は呼んでみたい…なんて。今逃したら、こんなチャンス二度もないだろう。


『ぃや、確かに呼びづらいし…晴樹で!』

声が裏返りながらもスカートの先をぎゅっと摘まんでどうにか答えた。


『その方がしっくりくるな、智代子?』呼び捨て…胸も耳もくすぐったい。

名前を呼ばれただけなのに、胸が高鳴って、赤面。


『きっと優しいから簡単に仲直り出来ると思うけど?』