俺の名前は吉岡悟である。
俺の友達には変な奴が多い。
日本史研究部部長もその一人である。
まずここ、日本史研究部はもはや名前だけである。
現部長は、中二病だ。
しかし部活を作ろうにも中二病全開の活動内容では通らないので日本史研究部という部費不足に困っていた部を現部長が買い取って名前だけそのままで実質的には日本史無関係のクラブとなったのだった。
ちなみに旧日本史研のメンバーは全員が退部し、正史会を立ち上げているらしい。
日本史研現部長の出した資金によって予算は潤沢だという。
そして今のこの部の活動はというと…

「吉岡、カレーパン買ってこい。俺はカレーパンがないとやる気が出ない。異世界との交渉を始めるのには必須だ。」
「俺はパシリじゃねえぞ三好。俺の分も出すなら買ってきてやるがな。」
三好というのは日本史研究部を買い取った本人であり現部長である。フルネームは三好行博という。見ての通りの中二病患者である。俺は見てるのが面白いから所属しているだけである。決して同類などではない。
「水臭いこと言わずに買ってきてくれよ。なっ、吉岡。」
そういえばこの部屋掃除しろって言われてたな。
「あっ、そうだ。その間掃除するなら買ってきてあげてもいいよ。」
「じゃあお願いね(^-^)/」
本当に掃除するかどうか疑問ではあったが仕方がないので俺は席を立ち光が差し込む扉のほうに足を運んだ。するとその時、
「来たよ~」
日本史研メンバーの岡山美沙が入ってきた。何故か手にはバケツを持っていた。
「用意出来たよ。重曹水バケツ一杯分。」
はぁ? 聞いてないぞ? 何に使う気だ。掃除なら許す。
「今度こそ異世界の使者を召喚してやるから、見てろよ。」
三好はドヤ顔だ。異世界の使者の召喚って… 出来る訳無いだろ。痛すぎるな。まあだからこそ見てて面白いけど。でも掃除する気はなさそうだな…
とか考えてたら急に三好が立ち上がった。とても上機嫌である。そしておもむろに棚に置いてある仮面を被って言った。
「今度こそは成功するはずだ。オレの理論に間違いはないはずだ。」
「美沙も呪文を唱えようではありませんか。」
あぁそうですか。せいぜい頑張ってください。
こうして俺は教室を出た。
購買部は生徒の多い時間とはズレていることもあって空いていた。
いつものおばちゃんがそこにいた。
「おばちゃん、カレーパン三つ。」
ついでに美沙の分も買っていくことにした。気が利いてるな俺。
「はいよ、360円ね。」
お金を支払い、購買を後にする。それにしても何故だろう。俺は昔の作品でもカレーパンを買ってた気がするな。まあ多分気のせいだろう。
廊下には運動部がトレーニングをしている。暑苦しいぞう。
「すまないがあなたが吉岡悟さんだろうか。」
声がした。しかし声のするほうには誰もいない。
俺は辺りを見回すも暑苦しい運動部連中しかいない。
「ここだ。」
俺の肩に何かが当たるとともに真後ろから声がする。まさか幽霊…じゃないよな…
体が震える。俺の本能が感じることを拒否するかのようだ。
「どうして震えている。」
後ろを振り向くとそこには女の子がいた。
「うぁぁぁぁぁーーーーー」
思わず叫び声を上げてしまった。俺の本能は恐怖に支配されてしまっていたのだった。
「落ち着け。怖がらないでくれ。」
俺はしばらく顔をうずくめて動けなかった。
しかし人間というものは時間が経つと落ち着いてくるものだ。頭が冷静にものを考えられるようになり俺は顔を上げた。
「すまん、驚かせてしまった。」
俺の視界に写った女の子が謝罪した。
「そんなつもりはなかったんだが、すまない。」
「いきなり怖がって悪かったよ。」
俺も謝った。すると女の子は
「私は瀬本真佐美という。実はちょっと気になることがあってな。日本史研に聞きたいことがあったのだ。」
聞きたいことといってもあんな意味不明な部活に何の用があるのだろうか。しかしよく見ると瀬本は制服を着ておらず黒いマントを羽織っていた。なんとなくあやしげな雰囲気である。怪しげではなく妖しげというべきであろう。妖艶といえば合っているかもしれない。
長い黒髪が揺れる。その姿はまるでこの世のものではないように思えた。
「吉岡さん、吉岡さん。」
その声で我に返る。
「ごめんごめん。でなんだったっけ。」
「何故だかは理解らんが日本史研部室から不穏な気配がするのだ。それで少し気になって聞いてみようと思った次第だ。」
何を言っているのか理解できない。
「知ってることがあれば何でも教えてくれ。なっ なっ なぁっ!」
瀬本さんの顔が近づいてくる。艶かしい唇が目の前に映る。
瀬本さん近い近いっ∑
俺の顔がみるみる紅潮していくのを感じる。
瀬本も気づいたのか俺から少し離れて照れくさそうな表情を浮かべる。
「と、とりあえずだな、日本史研に案内してはくれまいか…」
俯き気味で恥ずかしそうに話す。その姿はとても愛らしいものだった。
「あ…案内してあげましょうぞ」
動揺からか思わずおかしな口調になってしまった。今の誰だよ。
「よろしく…頼むぞ…」

こうして瀬本を連れて部室へと向かうこととなったのだが、さっきから瀬本はずっと袖を掴んでいる。息遣いがまともに感じられる。
俺の鼓動が速くなる。心臓の音が聞こえていないだろうかと思った。
ずっとこのままでもいいかもしれないなとも思った。しかし、この世界は残酷なんだ。すぐに終わりが来てしまった。
部室に着いたからである。
しかし何かいつもとは様子が異なっていた。
部屋が暗い。どう表現すればいいのか分からないが不気味な様相を呈していた。
瀬本は俺から離れ、構える。
俺は恐る恐る扉を開けた。
すると二人は言いようのない暗い顔をしていた。
俺は二人に尋ねる。
「何があった。」
すると三好が答えた。
「実は、重曹水を運んでいたらベランダからぶちまけてしまって、下にいた誰かに浴びせてしまって… しかし声をかけるまでもなく立ち去ってしまって… どうしようかと悩んでるわけで…」
「いやいやそれ捜して謝らないとまずいでしょ。後から問題になってからでは遅いぞ。」
何をしてくれてんだ。バカだろ。まあ理解ってたけどさあ…
「で客なんだが。」
俺は瀬本を手招きする。すると警戒しながら部室へと入ってきた。
そして胸に手を当て、自己紹介を始めた。
「瀬本真佐美という。どうぞお見知り置きを。」
頭を下げる。それを見た三好は感心しているらしい。
「ほう。礼儀正しい良い娘だ。ぜひうちの部員にならないか。」
何でだよ、理論が飛躍してるよ。アインシュタインもびっくりだ。
「ではお言葉に甘えて、入部させていただこう。」
おいおい入るのかよ。
とか思っていたら、
「この部活は怪しいからな。内部から調べたいのだ。」
瀬本が俺に耳打ちする。息がかかってくすぐったい。
そういうことか。でもこの部活はせいぜい中二心がくすぐられる程度で怪しいことがあるとはとても思えないが。
「で、重曹水?の件はどうするわけだ。」
「それだが、今考えた。お金で解決できるんじゃね?この部買ったみたいに。オレっちのお金はオレっち自身が稼いだんだから使い方は自由だし。」
論点ズレすぎ。
「いやいやそういうことじゃないだろうが。」
思わずデカい声で叫んでしまった。反省。
「それでこのクラブは一体何の活動をしているのだ?」
瀬本が問う。すると三好は待ってましたとばかりに嬉々として答える。
「異世界からの使者の召喚さ。この世には絶対に異世界があるはず。だから何時か成功すると信じて闘っているのさ。」
何とだよ。
「ほほう、それは興味深い。是非聞かせてもらうとしよう。」
だから何でだよ。今の話に興味深いところゼロだよね?
「この重曹水はな…」
「ふむふむ」
「それでこれが…」
「ほう」

完全にトリノコシティになってる俺ガイル。
「ゆっきー!」
突如としてこの空間を切り裂くように颯爽と登場したのは日本史研のもう一人の部員、萩乃だった。
「待ったー? ゆっきー大好きだよ! 愛してるー!」
いつもはウザいだけだがこの空気を変えてくれるだけでもありがたい。
「萩乃… マジでそういうノリ止めてくれよ… 普通にしてくれ。」
三好、お前も充分普通じゃないからな(笑)
「なんでー。ひどーい。」
いやいや萩乃も充分酷いが。だが気にしたら負けである。ソースは俺。