男のひとり言ー「むとうさん」番外編

俺には善悪とか、自分の希望とかそういう観念がない。若い頃は特にそうだった。稼業と目の前の腹の探り合いを如何にくぐり抜け、稼いだものを守るかしかなかった。

良いって思うことってそうそうねぇ。

一見良く見えることには裏があると疑うのが常だ。

何が悪いことだとも思わねぇ。

俺にはそんな権限もない。

ただ、あいつと居ると、それも悪くねぇなって思うことが多い。

普通に生きるのが一番難しいんだ。それをあいつは当たり前のように成し遂げて、お酒を飲みながらの仕事の話で時々おすそ分けしてくれる。

また、同じものを食べながら季節の話とか、最近のニュース、車の改造の趣味について話すのも悪くないな。

あいつ、本当に腹くくってるのかよ、って思う時がある。

さっき風呂場で俺の背中の彫り物見たとき、「綺麗…」って言いやがった。あいつのことだから、本当に綺麗と思ったのと、気を遣ったのと、多分半々だろうな。

2人で温泉旅行に行く仲になるまで、武藤には葛藤が多少なりあったし、約束がない関係に甘えていたのも事実だ。

自分が興味があって、もっと会いたくなってしまって、普通の人みたいに恋愛している時が楽しいとほんの少し思った。だからご飯にも誘った。