男のひとり言ー「むとうさん」番外編

武藤はそれを大切にした。常に自分のペースで、自分の物差しで行動する武藤が、慶子に対して送ったり、ご飯を共に食べる時間を作ったり、気を遣う自分が嫌いじゃなかった。

あいつは俺ができないことを悠々と、一生懸命やっている。

話は高校の総合学習の調べ物に戻るが、指定校推薦枠を狙っていた優等生がその授業の総仕上げのレポートを発表して言った言葉を覚えてる。

「みなさんが考える、働くことの意義は何でしょうか。生計を維持するため、自己実現のため?

『稼業』と『仕事』という言葉があります。

一般に、類義語として認識されていますが、この二つの違いは何でしょうか。

ここに最初の問いのヒントがあります。

『稼業』は字の如く、お金を稼ぐために働くことです。

『仕事』はどちらかといえば、社会規範や組織のルールに則り、決まったことをしてお金を稼ぎ、それが自身の自己実現にもなるという多くの意味合いを含みます。
これは、働くことが人としての人生、生活を作り出すということです。

お金を稼ぐ目的なら働く手段は多くあるでしょう。ただ、それが最大の目的になった時、人間は長くそれを続けることは不可能だと感じます。

人間は、働く時、お金を稼ぐ以外の目的を見出したいものなのです。

私は稼業ではなく、仕事をしたいと願います。」

正直大して話したこともないやつだったけど、この話には今も当時も大きく納得したよ。

そして、俺も仕事人になりたいと思った。会社に勤めて、決まりを正当に利用して、その中で自己実現だとか、稼いだお金でささやかだけど、誰かに何かを買ってあげたりして幸せを共有したかった。