男のひとり言ー「むとうさん」番外編

一方武藤さんは….身体を添わせてくるわけでもなく、ただ、私に腕を回している。私の様子を静観しているような余裕を感じる。多分、また口の端だけ上げてニヤッとしながら私の体を見ているのかもしれない。

こいつは…武藤は慶子の様子を観察していた。

同じ部屋に泊まろう、ということは、そうなることは想定内ではあるが。武藤としてはそれを焦る気はなかった。それより、慶子に焦って欲しくなかった。

まぁ、召し上がれって言うんなら。今でも。

武藤は慶子の首に手を回す。ぞくっとして慶子が顔を上げた。武藤はやっぱりいつものニヤつきで慶子を見下ろす。慶子はそれにゾクゾクしてほわんとした頭の中で、あぁいよいよか…と心の準備をする。

そんな時、忘れていたことのように、新年は明けた。

遠くからぼやけた除夜の鐘の音。

武藤はぱっといつもの読み取れない表情にぱっと戻った。

え?もうこれで終わっちゃうの?慶子はきっと物足りなそうな表情をしていたことだろう。

「年明けたし、部屋戻るか。」

「…はい。」

「そんな顔するなよ。」

「えっ…いやその。」

「寒いだろ、外。」

それに部屋でも二人きりだろ、低いけど、明るい調子で武藤がついでの様に呟いたのを慶子は聞き逃さなかった。

こいつと一緒にいるのは…いいかもしれないな。
武藤はそう思った。

関係を進めることに気を取られずに、焦らず、お互いを知って行けばいい。

ゆっくとした信頼関係の時間が、二人の間に流れ始めていた。