男のひとり言ー「むとうさん」番外編

しかし、あいつが川崎に訪ねてきた時は、予想はしていたがびっくりしたよ。だって、急に泣くんだから。まだ1ヶ月しか経ってないじゃねぇかよって。

あいつにとって、俺と飲んだり、食事したりすることを、どう感じていたんだろうか。あいつは多分、好奇心が強い。ヤクザ者の俺を面白がっていたかもしれない。

俺にとってはすごい大切な時間だったんだぜ。

武藤は大切だからこそ、臆病になった。武藤は意外にも、臆病な自分を大切にした。否定もしないし、あえてさらけ出すこともしなかった。

武藤は人間の弱いところをよく理解している。幼い頃からの経験なのか。それは稼業にも生きた。ある種、人間の弱さを利用するには、その弱さを理解し、否定せず、時に弱い人間を恐れなければいけない。

弱さを知って、否定しない。そんな強さにおそらく慶子は惹かれたのだろう。

山崎の弱さについても、武藤は知っている。山崎の家は現代珍しく代々世襲の大きな組だった。つまり、慶子の父浩一は本来組を継いでいく長男だった。

しかし、弟の栄基が継いだ。幼い頃から身体が大きく、喧嘩っ早いガキ大将タイプだった浩一に比べ、栄基は身体も弱く、本を読むようなタイプだった。

山崎は武藤が20の時背中に虎を彫り終えた日、自分の組に入れて行く行くは自分のすぐ下のポストを用意すると言った。武藤を手なずけ、手元に置こうとした。

しかし、武藤はそれを断り、同じ組織内の2次団体の舎弟になった。