男のひとり言ー「むとうさん」番外編

武藤が踏み込まないのには大きな理由があった。

やはり、自分がこの道のものであるということだった。慶子と男女の関係になることにかなりの躊躇いがあった。お互い、結婚を考える歳でもあるので、慶子の意思が固まるまで、行きつけのバーの常連同士という曖昧な関係を崩したくなかった。

ケーキを食べた時は、し過ぎてしまったと武藤は後悔したと同時に、自分がそんなことまでしていることに恥ずかしさを感じた。何も悪いことが起きたわけでもないのに、武藤は疲れてしまった。

そんな疲れを感じ始めたタイミングで、ちょうど稼業の替え時がきた。

福富町でやっていた産廃事業のルートで、傷害事件が起き、それを運悪く警察に見つかってしまったということだった。なんとかお咎めなしで探られずに済んだが、年末も近いことだしと、場所を移して次のビジネスを川崎で始めたのだった。

慶子にそれは教えなかった。よく使うという理由で産廃用の携帯を教えていたが、それも契約解除した。

用心深い武藤にとって、慶子に容易に次のビジネスを教えることに抵抗があったということもあった。

武藤は、長い目で見て、慶子が本人から暴力団員である自分と付き合うことを望むことを待ったほうが良いと思った。

そこには、慶子の人生を変えてしまうことに対する一見優しさのように思える武藤の弱さがあった。