「何故だ?」
くすり、と目の前の男が笑った。
笑われたことに混乱する。もしかしてからかわれてるのだろうか。
「課長、そんなふうに冗談言うのやめて下さいよ」
もう、やだなーと笑って再度如月に視線を戻す。
なのに。
(………っ)
そこには想像していたより遥かに真剣な眼差しと、その中にほんの少しの淋しげな色を秘めた如月の瞳があった。
(こんな目をしてるなんて、知りたくなかった。
私は多分、そこまで鈍感な方じゃない、だから……)
だから、気付いてしまいそうになる。
琴子の言った"冗談"という単語が彼にそんな顔をさせているのではないかと。
たぶんこの流れは、課長にとって、賭けだったんじゃないか、と。
(私、いま口説かれてるのかも)



