課長が私に恋してる?



「お、おいしかったでしゅ……」



噛み噛みのまま涙ながらに綺麗になったお椀に琴子が手を合わせると、目の前の上司は少しだけ嬉しそうな顔をした、かと思うと慌てたように仏頂面に戻って。



「いや、今回は素材が良かったな。……ご馳走様でした」



そう手を合わせた如月を、琴子は恨めしげに睨んだ。



(何故だ、何故私は逆の立場に身を置いているのだ……!?)



思えば先陣を切って如月がキッチン入っていったときに怪しむべきだったのだ。
この男、只者ではないーーと。



気づけば如月の的確な指示のもと、琴子は野菜しか切っていなかった。
何故だ。
何故プライベートまでこの上下関係。



「にしても如月課長ー、料理得意なら言ってくださいよー、琴子、びっくりしちゃったー」



自分をかわい子ぶって名前で呼んだのはもはやヤケクソだったからだ。



素晴らしく絶妙な味付けと無駄のない手捌きのもと作られたのは、季節の野菜の天ぷらと、本格的に出汁をとった三つ葉と麩のお吸い物で。



まさか米まで土鍋で炊くと思いませんでしたー、と完全なる嫌味と嫉妬がないまぜになった台詞を吐き捨てるも、完膚無きまでの敗北に琴子は頭を突っ伏したのだった。