そして今に至るわけだが。
「……いえ、同居してるわけでは、ないんですけど」
そうして琴子が口をつぐんだのには理由がある。
言おうか、どうしようか迷っているうちに琴子の視線は気付かないうちに玄関の脇の棚に飾ってある一つの写真へと注がれていたようだ。
それに気づいた如月もまた、そちらへと目を向ける。
「…………なるほど、な」
その一言だけで、全部を彼は理解したようだと分かった。
琴子と瓜二つな顔立ち、正確に言えば今の琴子よりも少しだけ若い年齢の"彼女"が、立て掛けられた写真の中で笑っている。
そこへ、如月は向き直ると、何も言わずに瞳を伏せて手を合わせた。
そこにはいまは亡き妹が写っていた。
如月にはずっと昔、一度だけ、彼女の話をしたことがあった。
まだ覚えていたんだなあ、と、手を合わせている如月の姿を何か不思議なものを見るように琴子は眺めた。
でもそれ以上に。
(課長って、こんなことが当たり前に出来る人なんだ)
その行為は、ただ申し訳なさそうに妹の話題を避けられるよりも余程心のこもったもののように感じられたのだ。



