彼女の反応を見て、上条がおかしそうに笑う。
「もうっ!」
冗談なのか本気なのか分からないことをよく言う。
ふりまわされっぱなしだ。
それから上条の横顔をそっと眺めた。
彼の年齢をきちんと知らなかったのを思い出したからだ。
「そういえば、上条さんっておいくつでしたっけ?」
「私ですか? 今は二十九ですよ」
「そうでしたか」
上条が目を細めて笑う。
「えぇ、もうすぐ三十路です。
早く結婚しろって、母親にどやされてます」
そして少しさみしそうに、ぽつりと呟いた。
「父には孫の顔くらい見せてあげたかったな」
「あの、上条さんのお父様は?」
「去年亡くなったんです」
聞いた瞬間、透子はしゅんとする。
「そうですか……」
「仕事一筋って人だったんですけどね。
定年してから、急に元気をなくしちゃって。
癌だっていうのが分かって、それからはあっという間でした」
透子は自分の母親のことを思い出し、少し気持ちが沈んだ。
「つまらない話でしたね」
「いいえ。無神経に聞いてしまって、すみません」

