「何でだよ。
あいつに怒られて、腹がたってたんだろ?
復讐したかったんだろ?
このまま恥ずかしい思いさせてやれよ。
ちょうどいいだろ」


それに対し、透子は毅然とした態度で首を振る。


「……こんなの、やっぱりよくないよ」


それから眉を下げて笑い、少しさみしげな表情になった。


「私、こういうの向いてない」


すると途端に冬馬の語調が弱くなる。


「その言い方だと、俺がそういうの向いてる嫌なやつみてーじゃん。
俺は透子のためにさぁ……」


透子はやわらかい眼差しで冬馬を見つめた。



「違うんだよ。
最初から、私がきちんと止めなかったのが悪かったの」


優しく顔を傾け、彼を説得した。


「ごめんね、冬馬。
私たくさん怒られて、どうしても許せなかった」


冬馬はむすっとした顔で煙を吐いている。


「でもね、許せないのは、上条さんじゃないの」


そう言われ、彼女の方へ視線を上げる。


「私が許せなかったのは、いつもおどおどしてろくに与えられた仕事が出来ない、私自身だったから」

「……そうかよ」


透子はにっこりと彼に笑いかけた。


「私、迎えに行って来る。
それで、天音として会うのは今日でやめるから」


「あぁ」


席から離れようとして、途中で振り返って人差し指を突きつけた。


「冬馬は先に帰っててね! 私のこと、見ないで!」


冬馬は不服そうに、深い溜息をついて頷いた。


「……へいへい」