彼の顔には思い切りざまあみろ、
と書いてあった気がした。


「じゃ、じゃあ、上条さんが異動っていうのは」


「少なくとも今年はないだろうな。
先の話は分からないし、ちらほら聞かれるけど
そういうのもあって今はタイミングが悪いし」


透子は力が抜けてへたりこんでしまいそうになる。


咄嗟に彼の腕を握り、口からこぼれたのは。



「だ、騙された」


そんな言葉だった。


「誰が騙しただ!」


「嘘つき」


上条は心外そうに口を尖らせる。


「俺はずっと木本のことで板挟みになってたんだよ。

出社したら上からどうなってるか聞かれるし、
木本本人からも愚痴愚痴言われるし、
ずっとそういう話ばっかりしてたんだ。

そんな状態が続いたら、木本のことだと思うだろ」


「思いませんよ!」


「そんなのはどうでもいい」

上条は透子の頬を両手ではさみ、
上に向かせる。


「どうでもいいって……」


「俺にとって大事なのは、七瀬の気持ちだ」


彼に真剣に見つめられ、顔が赤くなる。


「怖かっただろ、その顔で会社に来るの」


声が優しくて、胸が苦しくなった。


「俺がいなくなると思ったら、
そんなことも出来たのか?」


透子はふわりと微笑んだ。

「形から入るじゃないですけど、
変わるには、まず外見からかなって」