考えればおかしいことだったけれど、
確かに最近フロアで彼女の姿を目にしていなかった。
母が亡くなったり上条と気まずかったりで
自分のことで色々慌ただしかったから、
ちっとも気に留めていなかった。
それを知ると同時に、違う不安が生まれる。
「あ、あの、木本さんが会社に来たくないのなら、
私のせいですよね、それって」
「いやいや、あれだって元はと言えば本人のせいだろ。
でもなぁ、木本なんか本社の相談窓口に、
ずっとうちの部署の人間から嫌がらせされてて、
空気が悪いから出社したくないみたいな
タレコミをしたらしくてなぁ」
「えぇっ!?
それって、パワハラとか相談する所ですよね?」
「そうなんだよ。
幸い木本がどうしてそんなこと言い出したか、
部長やら隣の部署の人やら
経緯を知ってる人がたくさんいたから
結果的にはうちの人間が悪いみたいな話には
ならなかったんだが、
ほら、あの人元々コネ……」
そこで一度小さく咳払いする。
「っつーか、縁故採用みたいな所があって、
ちょっとややこしくてなぁ」
「それで木本さんが
結局本社に行くことになったんですか?」
「あぁ。
本社に行ったら楽出来るみたいな気持ちで、
二つ返事で承諾したらしい。
けど最近本社の総括部長がすげーキツイ人に変わってな。
彼女が嘘ついてたのも筒抜けだし、相当苦労すると思う」
上条はくっ、と声をたてて笑った。
「まぁ自業自得だろうな」

