「でも、考えても考えても、
気がついたら彼に会いたいって思ってしまう。
これからはもう、
遠くに行ってしまって
彼のことを見ることすら出来なくなるのに」
冬馬ははっとしたように顔を上げる。
「何でだよ」
「上条さん、本社に異動になるんだって」
冬馬は乱暴にグラスを揺すった。
「よかったじゃねーか、
気まずいやつと毎日あわなくなって」
「うん、よかった」
彼の顔が、どんどん不機嫌な表情になっていく。
「よかったって思ってんなら、ちゃんと笑えよ」
そう言われ、透子は無理矢理笑おうとした。
けれど、考えれば考えるほど、
涙が浮かぶのを止められなくなった。
いつから自分は、こんなに弱い人間になったのだろう。
「上条さんがいなくなるなら、
最後に私に何が出来るか考えたんだ」
透子はぐっと目蓋を擦り、
やわらかく微笑んだ。
「私、今まで結局誰とも本当の自分で向きあえてなかった。
だから、これからは私も変わりたい」

