――もう、限界だ。
透子は上条の身体を離し、
少し離れた所に立った。
そして口に手を入れ、
マウスピースを投げ捨てた。
透明な物体が、床にかつんと転がる。
上条はぎょっとして身動きを止め、
投げ捨てられた物体をじっと見ていた。
それから変貌していく透子の顔を見て、
息をのんだ。
まるで、魔法にかかっていくようだった。
腫れぼったい目蓋に手をのせ、
何か透明な物をピリッと剥がすと
ぱっちりした大きな瞳があらわれた。
「……あ」
それから透子は鼻に手を当てる。
今までこんなに近距離で顔を見ていたのに、
ちっとも気付かなかった。
ぶにぶにした小さなグミみたいな物を外すと、
広がった鼻筋がすらりと通る。
最後に机に置いてあった
コットン状の化粧落としで、顔全体を拭う。
彼女が顔を覆う白いシートを顔から離した時。
目の前に立っていたのは、
もう七瀬透子ではなかった。

