透子は近くにいる上条を意識しないように、
必死に心を殺していた。



彼の手に触れると、
それだけでもっと近づきたいと
思ってしまいそうな自分が嫌だった。


彼に食事に行こうと言われ、嬉しかった。


食事くらい、確かに同僚なら普通だろう。


けれどもう恋人でもないのに、
ましてや自分はただの部下でしかないのに、
これ以上彼と親しくなってまた期待したくなかった。



どうせ淡い希望を抱いても、
すぐに叩き壊されることが分かっているのだから。



「では、正直に言いますけど。
……上条さん」



上条は真剣な顔で透子を見つめる。

「何だ」


「辛くなるので、
あんまり私に話しかけないでください」


さすがにそれには上条も呆気にとられ、
口はぽかんと開けてしまう。


「辛いって……」


そのまま腕を振りほどき、
また歩き出してしまおうとする透子を
さらに引き止める。


「待て、どういうことだ!?」