ベランダまで行くと、
母親がシーツを干していた。
透子は畳の部屋にちょこんと座り、
じっと母の姿を見つめた。
母親は透子が帰ってくると、
いつもすぐに気づいてくれた。
エプロンをはためかせ、
何も言わずにじっと座っている透子に
笑いかける。
「おかえり、透子」
母の笑顔を見ると、
何より安心出来た。
どんなに辛いことがあっても、
ここにいる間は忘れることが出来た。
守られていると、
実感出来た。
ここが、
洗濯物を干す母を見ていられる
この場所だけが、
一番自分らしくいられる場所だと思った。
透子は現実に意識を戻し、
駐車場にとまっている
車たちをぼんやり眺める。
あの時、素直に謝ればよかった。
いくら後悔してももう遅い。
どうしてもそのまま意地をはって。
結局謝れずに、お母さんは意識を失った。
あんなことを言いたかったんじゃないって。
さっきも病室で言ったけれど、
伝わりはしなかったのだろうか。
目を閉じると、笑顔の母親の姿が浮かぶ。
ごめんねって、言えばよかった。
お母さんの意識があるうちに。
最後にきちんと、謝りたかった。

