「ほんと、お母さんはすごく地味なのねぇ」
「お父さんも普通の人だったわよ?」
「まぁ、それじゃ別の父親がいたりして」
母親が平凡な風体であるという優越感と、
透子が自分の子供より明らかに優れているという嫉妬。
それが渦巻くような、嫌味な声と鼻につく笑い声。
母と父を侮辱されたことに怒り、
思わずその中に踏み込もうとした透子の手を
やわらかな感触が止めた。
「……お母さん」
振り返ると、
母が少しさみしそうな顔で笑っていた。
透子の頭を撫で、
ささやくように告げる。
「大丈夫よ。
透子は、ちゃんとお母さんとお父さんの子供だから」
それを聞いた瞬間、
母親にこんな顔をさせた自分が悔しくて歯がゆくて、
ぼろぼろ涙がこぼれた。
あの頃の自分は、
誰も好きじゃなかった。
母を蔑む大人達も、
自分を阻害する子供達も、
誰も信用出来なかった。
学校が終わると、
いつもいちばん先に教室を出て
急いで家に帰った。
高い空、
焼けつくような熱い太陽。
古めかしいけれど、
隅々まで掃除の行き届いた家。
息を切らして玄関の扉を開け、
靴を脱ぎ捨てる。

