きっと母の具合が悪いのを知って、
気を使ってくれているんだろう。


透子は満面の笑みを浮かべ、
いたずらっぽく質問した。


「天ぷら蕎麦ですか?」


「違う! 
お前はそうやって、
俺を天ぷら蕎麦ばかり食べる男だと思って……」


「あはは、思ってませんよ」


上着を羽織り、
にこにこしながら上条の後ろを歩く。


「何か食べたい物はあるか?」


「そうですね……
焼き鳥、が食べたいかもしれません」


「意外に渋い選択だな」


「上条さんは何か食べたい物ってありますか?」



和やかに会話しながら、部屋を出ようとすると。



プルル、プルル、と
内線電話がかかってきた。



……こんな時間に珍しい。


二人は話すのをやめ、思わず顔を見合わせてしまう。



「俺が出る」


「ありがとうございます」


透子が軽く会釈すると、
上条が腕を伸ばし近くにあった受話器を持ち上げた。


「はい、上条です」


相手は受付の女子社員だった。


「上条さん、お疲れ様です。

七瀬さんはまだいらっしゃいますか?
鈴架総合病院からお電話なんですが」


「分かりました、少し待ってください」


上条は硬い表情で受話器を下にさげ、
透子に話しかける。