「で、と……っ」


声を出そうとして、
冬馬が一瞬言葉に詰まる。


「……と?」


冬馬は目を伏せ、
薄く笑った。

危ない、透子と言いそうになった。


「や?
天音もそうかと思った、と」


「自分の顔が大嫌いだと言っていたから。
あんなに美しいのに、どうしてだか分からなくて」



冬馬は上条の鈍感さに苛つきを感じた。


透子の今までの苦悩を知らないのなんて、
当然といえば当然だ。


けれど、大事な恋人ならもう少し想像力を働かせることは
出来ないのか、と。


余計なおせっかいだと分かりつつ、
ついつい言ってしまいたくなる。



「……ずっと嫌な思いしてきたからな。
そりゃ、嫌いだったんじゃね?」


「嫌な思い?」


そう質問すると、
急に冬馬の機嫌が急降下する。


「まだ俺に聞くのか?」


「いや……」


「そんなんさぁ、本人に聞けよ。
こそこそ嗅ぎまわってんの、
あいつが知ったら傷つくと思うけど?」


上条もその言葉に納得し、
素直にそれを認めた。


「そうだな。
すまない。
色々教えてくれてありがとう」


あっさり謝られ、
毒気を抜かれた気分になった。


「そろそろ行こうか」


上条が財布を出そうとすると、
無理矢理伝票を引ったくられる。