「…………きっと何も起こらないよ。
上条さんは普段は真面目で無口だし、何を考えてるか分からない人だし。
私が声をかけたからってどうにかなるなんてないと思うけど」


はぁぁぁ、と冬馬の口から深い溜め息が落ちる。


「アホだなぁ。
そういうやつが鼻の下伸ばしていつもと全然違うみたいになるから、面白いんだろ?」


「いつもと全然違う……」


それはたしかに少し興味がある。



しかしすぐにまた憂鬱な表情になった。



「でも、もしバレたら会社に居づらいし」


冬馬は拳でガン、と小さく机を叩いた。


「バレねぇーーーーーって!
普段のお前と今の顔比べて、おんなじ人間だと思うやつがどこにいんだよ」


「う、うぅん」


確かにこの一年間、人にバレたことは一度もないけれど。


けれどそれは極力この顔で外を出歩かなかったし、特定の人間と深く関わらないように生きてきたからでもあった。