「言っても仕方ないだろう。もう放っておけって」
上条は小さく溜め息をついた。
「自分が責められてると思ったんでしょう。
案の定、ものすごく落ち込んだ顔をしていて」
透子はどきどきしながら彼に問いかける。
「で、でもそれ、結局その人が
何か失敗したからなんでしょう?
直樹さんも、彼女のこと迷惑だと
思ってるんじゃないですか?」
つっこみすぎたかと思いつつ、
彼の本心を聞きたいのが止められなかった。
それにはすぐに優しい響きがかえってきた。
「迷惑なんて、そんなことないですよ」
透子は驚いて上条を見上げる。
「本当は入ったばっかりだから、
他の人間がもっと目をかけるべきなんです。
失敗くらい、して当たり前なんだって
言いたかったんですけど」
「そう、ですか……」
上条は照れたように笑う。
「言葉で伝えるのは、苦手なんです」
透子は布団に顔を埋め、
泣きそうなのを必死に堪えた。
――嬉しかった。
彼がそんな風に思ってくれているのも、
あんな些細な出来事を、
未だに気にかけてくれているのも。
透子は顔を隠しながら、
少しこもった声で告げた。
「……大丈夫ですよ。
私は直樹さんが優しい人だって、知ってますから」
そして心の中で、そっとお礼を言った。
……上条さん、ありがとう。