彼女は特におかしいと思わなかったのか、
楽しそうに会話を続けた。
「ご覧の通り、狭いお店ですからねー。
テンチョと私で充分回せちゃうんですよ!
あと夜は、バーテンダー君の三人で営業してますっ!」
「……なるほど」
上条は無理矢理笑顔を作り、頭を下げた。
「引き止めて、すみませんでした」
「いえいえー」
「注文はアメリカンでお願いします」
「はい、かしこまりました!」
それから居心地の悪い気分で
すぐに店を飛び出してしまいたかったけれど、
幸い藤咲は自分に声をかけずにいてくれた。
注文したコーヒーはすぐに出てきた。
アンティークのようなきれいなカップだったけれど、
今の上条にそんなことに気づく余裕はなかった。
コーヒーを飲もうとして、
思わず取っ手を掴みそこねる。
ガシャン、と大きな音がして、
カップがソーサーの上に落ちる。
黒い液体が周囲に飛び散った。

