「……藤咲」
その上思わず口に出してしまった。
店員は愛想よく微笑み続けている。
「はいー? 私が藤咲です!」
どくん、と心臓が強く鼓動した。
これは、偶然か。
彼女が働いていると言った店で、同じ名字の店員。
そこではっと思いついたことがあった。
もしかして、天音さんの親戚か何かだろうか。
それならなんらおかしくない。
友達や親戚に誘われ、同じ仕事先で働く話なら
今までもよく聞いた。
そう考えて、続けて質問してみる。
「あの、少しおかしなことを聞きますが、
藤咲天音さんって……」
そこでようやく店員の瞳が不思議そうに見開かれる。
「あれ? はい、私が藤咲天音ですけど?」
その回答を聞いた瞬間、上条の頭の中は真っ白になった。
『私』、が?
――どういうことだ?

