いつから自分は、こんな風に
彼女のことばかり考えるようになったのか。
最近は何をしていてもずっと彼女のことばかり思っている。
恋の病、といえばかわいらしいけれど
いい年をした男がかかったのでは情けないだけだ。
ソファ席に座ると
そばかすのある背の高い女性店員に声をかけられた。
まんまるなメガネをかけた、やけに愛嬌のある女性だった。
長い髪を三つ編みにし、
後ろにしっぽのように垂らしている。
「いらっしゃいませ。
ご注文がお決まりになりましたら、呼び鈴を鳴らしてくださいね」
そう言いながらレモンを浮かべた水を机に置く。
上条はメニューを一瞥し、顔を上げた。
「はい。じゃあ注文いいですか?」
「どうぞー」
女性店員がエプロンのポケットから伝票を取り出す。
コーヒーだけ飲んで帰ろう。
「じゃあ、アメリカンを……」
言いかけて、何気なく店員のエプロンに視線をやり、
言葉が止まる。
『藤咲』
そう書いてあった。
上条の視線は、彼女のプラスチックの名札から離せなくなった。

