暗い気持ちになりながら通りを歩く。
心なしか手に持った鞄も重く感じた。
彼女からの連絡が不安定なだけで、
こんなに動揺している自分に驚く。
もしふられでもしたら、どんな状態になるだろう。
……ありえないと言いきれないだけに、
恐ろしくて想像もしたくなかった。
深い溜め息をつき、足を引きずる。
考えていても仕方ないことだ。
どこかでコーヒーでも飲んで会社に戻ろう。
そう思って顔を上げた所に、
聞き覚えのある店の名前があった。
『Santana』
「あ……」
上条は驚いて目を見はった。
そして前に天音とした会話を思い出す。
「私はカフェで、働いてるんです」
「へぇ、そうなんですか」
「はい。Santanaっていうお店で、
夜はバーになるお店なるんですけど。
とっても雰囲気のいいお店で、
店員の方も皆さん優しくて、居心地がいいんです!」
二階にある店を、やけに新鮮な気分で見上げる。
「そうか、ここだったのか」
会社のすぐ近くだ。
どこかで聞き覚えがある店だと思っていたけれど、
店が二階にあるので中まで入ったことはなかった。
下にかかっているプレートを見ると、営業中らしい。
五時まではカフェとして開いているようだ。
上条は、自分の思いつきを実行してみたくなった。
こんなに近くに天音の働いている店があると分かったら、
どうしてもカフェで働いている彼女を見てみたくなったのだ。

