そう言った瞬間、上条の表情が曇る。
「……男性なんですか」
透子はそれに気づかず、冬馬の話を続ける。
「えぇ。ヘアメイクアップアーティストをしてるんですけど、
すごく腕がいいらしくて。
最近は芸能人のメイクもしてるんですって」
「……そうですか」
彼の返事はぼそぼそしたものだった。
透子は声を弾ませて話を続ける。
「はい。
そういえば、この間女優の能登川カレンの
メイクをしたって自慢してました!
すごいですよね。
忙しそうだけど、話を聞いてると華やかだなぁって思います」
上条は複雑な心境で問いかける。
「天音さんは、よくその人に会ってるんですか?」
「よく……ってほどかは分かりませんけど。
用がある時は二週間に一度くらいでしょうか。
でも、お互い忙しい時は数ヶ月会わないのも普通ですよ」
「……そうですか」
そうもらしたまま、何も言葉を発しなくなってしまった。
透子はそこでやっと何か様子がおかしいと気づく。
急にむっつりと黙り込んだ上条に、
不安な表情を浮かべた。
上条さん、どうして急に機嫌が悪くなったんだろう。
考えても分からなくて、
持っていたペットボトルをきゅっと握りしめる。
今まで笑顔だったのに、無表情で何も話しかけてくれない。
気まずい沈黙が流れ、
二人とも黙って目の前の池を眺めていた。
このまま黙っているのは嫌だし……、
しばらくしてから勇気を出し、そっと問いかけた。
「あの……、私、何か気に障ることを言ってしまいましたか?」

