頬についた粘液を手の甲で拭い、兄弟の手に触れる。

氷のように冷たい。

一体何が起こったというのだ……

そもそも皆訓練をつんだ忍。就寝していたとはいえ、誰もが何かの気配に気付くこともなくこの様な有様など……考えられることではない。

忍は人一倍気配に敏感。敵意を持つモノなら尚更……




ガタッ――



ふいに戸口のほうでした物音に振り返り、黄蝶は目を見開いた。

黒く節くれだった長い足。二列に並ぶ赤く発光する八つの光。針のようにも見える毛に覆われた背におどろおどろしい赤黒い紋を刻まれた……

全長四メートルはあろうかと思われる、巨大な……鬼蜘蛛。それが戸口から外へと出ようとしている。

「……あやかしか……っ」

背を凍りつかせそうなほどの強力な妖気に黄蝶は身を震わせる。

山深い里では時にあやかしを目にすることはあるが、こんなに巨大で禍禍しいものはそうはいない……何故、こんなものの進入に気付かなかったか……。

チッ、と小さく舌打ちした音に蜘蛛は一瞬動きを止めたかに見えたが、すぐに何もなかったかのように小屋から出て行った。

「……!! 待て……っ!!」