荘(仮)

 掻い摘んでここに来た経緯を話す。
 超問題児のこと。
 同僚の教師に頼られたこと。
 対策を試行錯誤したこと。
 雲雀に考えがあること。
「フム。それで俺を頼ったと」
 むー、と腕を組む芳章。
 何でこんなのを頼るんだか、不機嫌な美琴は膨れていた。
「あ。こんなところに餅が」
 頬に指を突き立てる。
 ぷすー、と空気が漏れた。
 なんてバカップルだ、と自分のことを棚に上げて崇は言える。
 だがそれは一般人に対してだ。
 据わった目で見つめてくる女に
「ははは、こいつめー」
 冷や汗を流しながら定番の台詞を吐く男。
 とてもではないが茶化せない。
 悪戯された美琴はにこりと笑い
「言い残すことはあるか」
 本気と書いてマジな殺気。
 哀れ大ピンチを迎えた芳章!
 一発逆転の秘技を使う!

「愛しているよ。美琴」

 元は決して悪くない、むしろ二枚目の真っすぐ向けられた瞳。
 甘いマスクに甘い言葉。手を取ったり花を差しだしたり、余計なオプションがないため、元の味が良く生きる。
「……ありがとう」
 甘いものが嫌いな女はいない。彼女もその例に外れなかったようで。

「遺言はそれだけね」

 極上の笑みで殺戮発言。
 背後には愛器ディバインクラッシャー。

「死にさらせカマドウマ!!」

 全力で振り上げられる刺つき凶器。
「アンタなんか大嫌いじゃー!」
 その顔は真っ赤だった。