結局、急いで出てきた美琴は疲れてお茶をご馳走になる。
 物騒といわれ続けている愛器は外。玄関より大きなハンマーだが、どうやって取り出したのか。
「美琴さん、これ持っていい?」
「潰されなければいいわよ」
 さらりと言う。
「潰さ」
「片方九十キロあるから」
 豪腕剛力戦士がいた。
 かたかたと震えはじめる。
 持つ? 美琴の問いに二つに括った赤髪を振り回して拒絶する。
「冗談よ」
 とても信じられない401号室の雨宮このかだった。

「なるほど。管理人の芳章くんを探しているんだね」
「掃除しているんじゃない?」
「ありえない」
 即答だった。
 欠けらも信じていなかった。
 苦笑いを隠しきれないこのか。
 逆に、疾風翁はどこまでも真剣だった。
「私達は昼前からここにいたが、今日はまだ彼と会っていない」
「これから会う予定は?」
「ない」
「うっ。もしかして手詰まり?」
 そうとは限らない、という。

 この荘の中には平日であろうと残っている人はいる、まずは地道な聞き込みだ。
 そしてありえないと否定しつつも、掃除をしている可能性も0ではない。
「思い当たる場所を探してみるといい」
 きっとそこに、彼はいる。
 神々しいオーラを纏っていた。
「ありがとうございますっ」
 神託を受けた村人のように、美琴は飛び出した。

「疾風さん、本当にあれでいいの?」
 血を見そうな勢いだった。
「若いうちは元気に走り回ったほうがいい」
 ふーん、とベランダに身を乗り出す。お菓子を取りに行く際、彼が外を気にしていたのだ。
「疾風さん」
「なにかな?」
「わざと?」
「はっはっはっ」
 活気に満ちた笑いだ。
 外には箒と踊る芳章がいた。