「っく」
激しくかき鳴らされる音色は死を呼び生を支配する。
楽園には程遠い音楽を奏でる少女の優しい笑みはかえって末恐ろしい。
「ねぇね、僕らのこと、恐い?」
「…安心して。もう生き返らせはしないから」
「一生エデンで暮らしなよ」
「とってもおいしかった」
「知恵のリンゴ」
大事そうにシャリ、と手に持った真っ赤に濡れたリンゴを桃が頬張る。
「食べる?」
「…いるか馬鹿」
彼は無邪気にリンゴを差し出してきた桃を一蹴。
「じゃあちょっと待っててね」
「食うな。なんでほのぼのしてんだ」
「吸血鬼が血を吸うのとおんなじこと」
「リンゴすき」
「……」
傷つけられた肌をせっせとリバースで治して彼はいつの間にか山となったリンゴを見つめた。
「のんきなもんだな」
「美味しいよ」
「そう」
人間の血液以外に全く興味のない彼にはリンゴはどうでもよかった。
「そういえばさ、気にならない?」
「何がだ」
「おかしくなったの」
「さっき」
「おかしかったでしょ」
「あれはね」
「僕らが」
「やったの」
「忘れてない?」
「あの帽子」
「…はぁ?」
「あれ、ほんとはすっごーい落とし穴あるんだよ」
「結構馬鹿だよね」
「うんうん」
「あの帽子さ、確かに君の命令には従わないといけなかった」
「でもさ、あれ、どうやって君だってわかるの?」
「…?」
「まだ分かんない?」
「知恵のリンゴ食べたはずなのにな」
「僕ら」
「あれ被ったんだよ」
「あれさ、直接つながってて」
「脳波によって君はあれを操れる」
「でも、逆にいえば」
「全ての帽子をかぶって」
「同じことを君に命令したら」
「どうなっちゃうの?」
無邪気に笑う、いや嗤う二人はこてん、と小首をかしげた。