雲上人―。
それは神の使い。地に立つことを許されない神の代わりに世を正しい方向へと導く者。
彼らの背中には印が刻まれており、それを見れば本物か偽者かの判断をすることができる。
彼らは神の使い故に多大な魔力を有するがそれを使えるのは世を導く、その時のみである。

そこまで本を読み進めたところで私は溜め息をひとつ吐き、図書館の天井を仰ぎ見た。
「雲上人かぁ…」
目を瞑り目蓋の裏に想像を走らせる。風になびく空色の髪、雲のように柔らかな笑顔…そして星のように輝く瞳。
「まさに空のような人…。」
雲上人がそんな人がなのなら是非とも会ってみたいものだ。あぁ、でも会ってしまったのならきっと私は恋をしてしまうだろうな。
魔法使いの自分と雲上人、あまりにも釣り合わないその恋を想像してハッとしたように目を大きくあける。そこにうつるのは黒色をした無機質な天井のみ。
「駄目だね、こんなこと考えている場合じゃないのに」
今日で何度目かわからない溜め息を吐く。
「溜め息吐くと幸せ逃げるよ?」
聞きなれない男子の声がしてぎょっとして声の主をみる。この時間は私くらいしか図書館にはいないはずなのに。
「君がネリネさんだね、さがしたよ。」
私は思わず口をあんぐりと開けてしまった。
なぜなら



その声の主が先ほど私が想像した「雲上人」その者だったからだ。


空色の長髪は一つに束ねられて腰のあたりまでのびている。瞳はまさに夜空のようでその輝きは私を魅了するのに充分だった。

その人は眼鏡をくいとあげ直し私をいぶかしげに見返してきた。…私が口を開けたままその人を食い入るように見ていたからだ。

「な、なんでっわ、わた、私の名前しって」
「噛みすぎでしょ」
その人はやわらかくフフと笑う。その顔も私の目蓋の裏にいた人その者で少し感動を覚えた。
しかしその感動はすぐに消え去ることとなる。

「まぁ、君のことなら以前から知ってるよ。
『学園一のおちこぼれ』ってね」

雷で胸を貫かれた気分だった。
そんな笑顔でこんなにエグいことを言われるなんて!!!!!!!!!それはさすがに想像しなかった。
そうだ私はこの魔法学園史上で一番のおちこぼれの『ネリネ』としてそれはもう有名だった。薬の調合もろくにできず魔法の実践もてんでだめということで私の進路について職員会議が開かれたくらいだ。
「……で、そのおちこぼれに何の用ですか」
今度は口を尖らせて噛まずに言い切った。
「やだなぁそんなに怒らないでよ」
相変わらずの笑顔で言われる。あの発言のあとだとさすがにときめかない。

すると次の瞬間、衝撃的なことを言われた。
「ネリネさん…いやネリネ!僕と友達になってくれないかい?」


「はい?」
それが私と彼との出会いであった。