「わかった」
小さい声でそう言うと翼はカゴからボールを1つとり投げる。
軽く投げられたボールは、吸い込まれるように指輪に当たって、それを落とした。
「すっご~い!!」
あたしは飛び上がって喜ぶ。
「おい、水本じゃん!」
あたしは隣にいたらしいクラスメートの山田に話しかけられた。
「水本の父ちゃん?若くね?」
それを聞いて翼は笑っていた。
「あたしの父ちゃんの妹の旦那!」
2人の時間を邪魔されたくなくて早口で説明する。
「え!?ってことは平尾?」
…しまった。学校でさんざん翼を自慢していたことに気づく。
店のおじさんも目をまるくしている。
「平尾選手っすか!?」
山田が翼を見つめる。
「えっと…」
翼は苦笑い。
「握手してください!サインください!」
「…ん、じゃこれ投げるまで静かに待ってて」
そう言うと翼は少し困ったような顔をして、残りの2つのボールを手にとった。
あたしは翼を困らせてしまったことに泣きたくなってきた。

