「彼女はいないよ。
それにこれは君に選んだんだ、君に1番よく似合う色だと思うよ？」




男の人はそう言って紙袋を開いていた。
ごそごそと手を入れながら私に向かって喋る。




「君は化粧品が好きなんでしょ？
さっきたくさんの人に化粧品を選んでる姿を見て感じたんだ」

「……見てたんですか？」

「うん、君にはセンスがある。
でも……自分の事になるとちょっと鈍いのかな？
それとも化粧するのはあまり好きじゃないのかな？」

「え……」




男の人の言葉に私は思わず目を見開いた。
この人の言っていることは確かに当たっている。



自分にどの色が合うのかとかはさっぱり分からないし……。
それに私は自分が化粧をすること自体あまり好きじゃないみたいだ。


会社でも普段でもナチュラルメイクだし……。
私は化粧品を作る事や見る事が好きな訳であって別にしたいわけではない。


こんな事言ったら化粧品会社の人間として問題かもしれないけど……。




「ふふっ。これを使って笑顔になって欲しいんだ。
他の誰かじゃなくて君自身が……」




そう言って取り出された1つのチーク。
ゴールデン・オレンジだろうか？
綺麗な色……。


私が見惚れていれば男の人は優しい笑みを浮かべ紙袋ごと私に持たせる。