やばっ……。
口紅を落とした事……凄く怒ってるんじゃ……。
橘部長の顔が怖すぎて声かけられないよ!!



「……」

「……」



私たちは2人ただ顔を見合わせたまま動かずにいた。
橘部長の鋭い目が私の目を捉えて離さない。




「大丈夫か?」

「え……?」




目の前に伸ばされた手。
この手は間違いなく橘部長の手だ。


……えっと……。
何が『大丈夫か?』なの?
あぁ……口紅の事かな?


私は拾った口紅を橘部長の手に載せる。
その瞬間、橘部長は一瞬だけど目を大きく見開いた。


……怒った顔以外で初めて見たかも……。




「お前は馬鹿か」

「なっ……」




橘部長はどこか呆れたように口紅を机の上に置いていた。


って言うか馬鹿って!!
そんな面と向かって言わなくたって!!


心の中で文句を言いながら立とうとすればいきなり手を引っ張られた。
凄い勢いだった為、私の体は勢いが付き過ぎて前に倒れそうになったが……倒れていない。