1年と数カ月という時が経った。
今日は凄く大切な日だ。


「おはよう、泰東」

「おはようございます、橘部長」


いつもの様に電車に乗り込めば橘部長が1番に目に映る。
挨拶をかわし彼の横に立てば何故か少し寂しい気持ちになった。


「今日が最後ですね……。
橘部長とこうやって電車で会うの……」

「……そうだな」

「……やっぱり寂しいです」


少し俯けば頭に温もりを感じた。
きっと橘部長が私の頭を撫でてくれているのだろう。
そう思うと少しだけ元気になれる。


「寂しくないだろう。
これからずっと一緒なんだ」

「……そうですけど……」

「今日は俺たちにとって大切な日だ。
だから笑ってくれ。お前が元気じゃないとアイツらが悲しむ」


アイツらというのは会社の仲間の事だろう。
皆の事を想えば胸は痛むが私の決めた道に間違いはない。
そう思って笑顔を浮かべる。


「そうですね!
最後くらい……笑顔でお別れしたいです」


最後……その言葉にまだ実感はない。
だが本当に最後なんだ。
私と橘部長があの会社に行くのは今日で終わりだ。


私たちは2人で会社を辞め、新しく化粧品会社を創る事にした。
橘部長の夢を叶えるべく……いや……私の夢でもあるか。
2人で一緒に頑張っていこうと決意したのだ。

険しい道だという事は十分に分かっているが……。
橘部長とならきっと大丈夫。