素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~

「……そう言えば何で橘部長は白衣姿なんですか?」


気になってはいたけどタイミングがつかめずに言い出せなかった。
それを聞けば橘部長はハッとした様にポケットの中に手を突っ込んでいた。


「忘れる所だった」


そう言ってポケットから箱を取り出した。
小さな木の箱。それを私に向かって突き出している。
受け取れという意味なのだろうか?意図が分からずに呆然としていれば橘部長は私の手に木箱をのせた。


「……開けてみてくれないか?」

「え……あっはい」


私は橘部長に誘導されるように木箱をゆっくりと開けた。
そこに入っていたのは口紅だった。
それを見た瞬間、懐かしい感じがした。
このデザインといい形といい……あっ……。


「これって……あの企画書の……」


そうだ……これは橘部長がうちの部署に異動してきた日に見た企画書の口紅と似ている。


「何でそれを……」

「前に倉庫で橘部長の作った企画書を見つけたんです」


驚いたように目を丸める橘部長に簡単に説明をすれば橘部長は納得したように『そうか』と呟いた。

そして、私の目を見るように顔を向けた。
その瞳の奥はキラキラしていて、まるで化粧品を作っている時の橘部長と同じだった。


「この口紅は俺にとっては大切な物なんだ」

「え?」

「俺が考えた中で1番……好きな物だ」


橘部長は優しく目を細めると私の手の中にある口紅を見つめた。
橘部長にとっては本当に大事な物なんだ。
そう思うと胸が苦しくなる。
だってこの口紅は商品開発されずに資料室に眠っていたんだもん。
きっと悔しかったに違いない。