素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~

「やめるんだ!!」

「え……」

「ははっ!やっと来た……王子様が」


いきなりの声に驚く私とは裏腹に全てを知っていたかのように怪しい笑みを浮かべる翔也さん。
翔也さんはそれだけ言うと、静かに私から離れる。

翔也さんの視線には白衣に包まれた橘部長がいた。
なぜここに……橘部長を見た瞬間に胸に痛みが走る。
額には汗が浮かび、荒くなった息を整えている。
その姿は急いでここに来たという事を表していた。

翔也さんは橘部長を恐ろしい目で見据えた。
見たことがない彼の表情に、私は何も口が出せなかった。
橘部長も橘部長で、翔也さんを鋭い目つきで睨んでいる。
一体どういった状況なのだろうか、2人が険悪な状態を見ると胸が痛む。
そう思いながらも、私は口をはさむことが出来なかった。
違う……。挟んではいけない、そう感じた。


「……橘さん」

「……何だ」

「俺は夏香ちゃんが好きです。
この気持ちは誰にも負けない」

「……」


翔也さんの視線は真っ直ぐに橘部長に向けられていた。
橘部長も目を逸らすことなく翔也さんを見ていた。


「……だからさ……。
中途半端な気持ちで夏香ちゃんを苦しめんな」


さっきまでの丁寧な口調は一瞬にしてなくなった。
橘部長を鋭く睨みつけると、ゆっくりと私の方を向いた。
橘部長を見る目つきとは全く違う優しい顔で。


「……彼女は俺が守っていく」


翔也さんの言葉に涙が出そうになった。
何で……何でそんなに哀しそうに笑っているの?
鈍い痛みが心を突き刺した。
私は翔也さんを知らない所でたくさん傷付けていた。
何で今まで気がつかなかったんだろう。
涙がこぼれそうになった時。
低い声が教会に落とされた。