素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~

『泰東』


低くてて冷たい声……でも、どこか優しいその声は私の名前を呼んでいる。
辺りを見渡しても何も見えない。
暗くて、暗くて……自分の姿さえ見えない。
孤独に包まれそうになった時、私を導くようにさっきと同じ声が聞こえた。


『泰東こっちだ』

「……」


私は無言で足を進める。その声に向かって。
何も見えなくて恐怖に侵されそうになるけど……私は何故か怖くはなかった。
だって私を呼ぶ声はどこまでも優しくて真っ直ぐだったから。
声がする方には淡い光が見える


「橘部長!」


私は無意識にその名前を出していた。
顔を見なくたって分かる。
すっかり聞きなれたその声は私の心を高鳴らせた。


『橘!』

『向日さん』


でも、すぐに私の心は悲しみに包みこまれる。
姿は見えないけど、きっとマコさんが橘部長の傍にいる。
それを……私が邪魔をする訳にはいかない。

私は暗い世界に引き返していった。
橘部長の声とは反対の場所へ。
あてもなく歩けば今度は優しい声に呼ばれる。


『夏香ちゃん、そっちじゃないよ』

「え……」

『君がいるべきところはここじゃない。
おいで……俺が必ず……』


優しい声は翔也さんのモノだってすぐに分かる。
でもその声は途切れて聞こえない。


「翔也さん……?」


私が呼べば周りは一瞬にして光に包まれた。
まるで翔也さんがどこかへ導いてくれるように。


『  』

「え?」


どこからか誰かの声が聞こえた様な気がした。
でも誰かは分からない……確かめる前に私の意識がゆっくりと遠のいて行った。