「お前……自分がどんな顔で橘部長の事を見てるか分かってねぇのかよ」

「え……?」

「すげぇ切なそうでこっちが見てられねぇよ……」


大樹は俯いていた顔をゆっくりとあげる。
そして、私の目を真っ直ぐに見据えた。

その目は怒りを表していた、でも……怒りだけじゃなくて哀しそうにも見えたのは私の気のせいだろうか。
大樹の初めて見る目に戸惑っていれば彼はオフィスを出て行ってしまった。

大樹が出て行ったオフィスは少し寂しく感じた。
どうしたんだろうか?心配だが今は橘部長の所へ行かなければならない。

タメ息が出そうになるのを我慢しながら橘部長のデスクに向かう。


「橘部長、何かご用ですか?」

「泰東。この資料だが所々、間違いがあったぞ」

「あ……すみません」


橘部長は鋭い目つきで私を睨む。
仕事に関しては本当に厳しいからな、何でミスなんかしたんだろう。
後悔しながら自分の作った資料を見ていれば橘部長はゴホンと咳ばらいをした。


「何かあったのか?最近お前らしくない間違いばかりだぞ」

「……いえ、何でもありません」

「泰東」

「……」


橘部長を見るだけで胸がドクンと脈を打つ。
私……まだこんなにも橘部長の事が好きなんだ。

無理やり笑顔を浮かべるものの心は悲しみで溢れ返っている。
タメ息が漏れそうになった時、私の心をエグる言葉が飛んできた。


「……水沢さんと上手くいっていないのか?」


私の作り笑顔が一気に消えていった。
橘部長の言葉の意味が理解できない。

どういう事?
上手くいっていないって……誰と?翔也さんと?
橘部長は一体何を言っているの……?

頭をフル回転させるがやはり何を言っているかは分からなかった。
呆然とする私をよそに橘部長は止まらなかった。


「気持ちは分かるが仕事に支障をきたすことは許さない」

「橘部長……おっしゃっている意味が分からないのですが」

「……付き合っているんだろ?水沢さんと」

「……へ?」


思ってもいない展開に私は間抜け面を披露してしまった。


「……なんていう顔をしているんだお前は……」


呆れた様にタメ息をつく橘部長。
自分でもどういう顔をしているのか気になったが、今はそんな事はどうでもいい。
なぜ橘部長は私たちが付き合っていると勘違いをしているのかが気になって仕方がない。


「橘部長お電話です」

「分かった。泰東、公私混同はするなよ」


否定しようとすれば橘部長への電話が掛かって来たとかでちゃんと訂正することが出来なかった。