私が失恋した日からどれだけの時が経ったのだろうか。
もう季節は夏から秋、そして冬へと変わろうとしていた。
ついこの間まで暑かったと思ったのに今ではコートが欠かせない。
11月後半だというのに寒すぎる。
気温の変化についていけずに私の体調は崩れていった。
まぁ気温のせいだけじゃないが、あれからよく眠ることが出来なくなった。
夜にベッドに入れば必ず橘部長の顔が浮かび、私の目には勝手に涙が浮かぶ。
いつになったら私はちゃんと諦められるのだろうか。


「……か……夏香!!」

「え?」

「大丈夫か?
最近よくボーっとしてるけど……」


心配そうに大樹が私の顔を覗き込んでいた。
今が仕事中だとすっかり忘れていた私は急いでパソコンに向き合う。


「心配かけてごめん。でも大丈夫だから」


キーボードに手を滑らせながら答えれば大樹の小さなタメ息が聞こえた。


「さっき橘部長が呼んでたぞ?」

「……そう」

「……お前たち何かあったのか?」

「え……?」


大樹が心配してくれるのは嬉しいけど……今はそっとしておいて欲しい。
まだ、全然気持ちの整理がついていないんだから。
そう思いながらニコリと笑顔を浮かべる。


「別に何もないよ」

「っ……」


私の作り笑顔に気が付いたのか哀しそうに顔を歪める大樹。
それに気付かないフリをしながら立ち上がる。橘部長の元へ行くために。
でも、足は動かなかった。
別に橘部長の所に行きたくない訳ではない、仕事として割り切って行動しているからその点は大丈夫だ。
足が動かない理由は大樹が私の腕を掴んでいたから。


「大樹……?」

「……だよ」

「え?」


俯いているせいで大樹の顔は見えない。だけど怒っているのは分かる。
だって大樹の体が小刻みに震えているから。