「馬鹿だよ……夏香ちゃんも橘さんも……」

「え……?」

「……何でもないよ」


優しく抱きしめる力が強くなっていった。
しっかりと私を包み込んでくれる。
でも、私は最低だ。今ここにいるのが“翔也さんではなくて橘部長だったら”そう思ってしまった。
翔也さんにこんなに優しくして貰っておいて、マコさんを応援すると自分で決めておいて……。
私は何を考えているのだろう。こんな自分が嫌で拳を握りしめていればそれに気が付いたように私の拳は優しく包まれた。


「苦しまないで」

「翔也さん……?」

「君は苦しまなくていいんだよ」


その優しさが胸いっぱいに広がった。
翔也さんの大きな手が私の拳をゆっくりと開かせる。
そして私の強がった心まで開いてくれた。


「翔也さん私……本気で大好きでした……」

「……うん」

「諦めたくなんかないよ……」

「……うん」

「でも……」

「もういいから」


泣き続ける私を落ち着かせるように頭を撫でてくれる翔也さん。
早く泣き止まないと彼に迷惑を掛けてしまう、そう思っているのに心とは裏腹に涙が溢れ出てくる。


「やっぱり……」

「ん?」

「やっぱり仕事が恋人です」

「……ふふっ……。君には俺がいるよ」


翔也さんにこれ以上心配させたくないという想いが膨れ上がった私は、涙でいっぱいになった顔で笑顔を作った。
自分ではわからないけど今の私の顔はいつも以上に悲惨な事になっているに違いない。
それなのに翔也さんは愛おしそうに私の顔を見つめてくれるんだ。

もし……翔也さんを好きになれば……私は……。
頭に浮かんだ考えを吹き飛ばすように軽く首を振る。

辞めよう……こんな事を考えるのは翔也さんに失礼だ……。
今私が出来る事は……やっぱり仕事だ。

そう思いながら彼の腕の中で密かに決心をした。
何があっても夢をかなえ続けるんだ。そう誓いながら目を閉じた。