「泰東、駅に着いたぞ」

「あ……はい」


呆然と立っていれば橘部長は私にキリッとした眼差しを向けて扉の方に足を向けていた。
慌ててその背中を追いかけるようにホームに降りる。
この駅は大きいからかたくさんの人が乗り降りするため人混みに流されそうになる。


「わっ……」


再び電車に押し込まれそうになった時、私の腕はグイッと誰かに引っ張られた。
そのおかげで私は電車に引き戻されることなく降りれた。


「あの……ありがとうございま……」

「……ボケッとしてないで気を付けろ」


お礼の声が途中で止まったのは私の腕をつかんだ人の顔を見たからだ。
すっかり聞きなれた低い声に私は苦笑いを浮かべた。


「橘部長、ありがとうございます」

「お礼はいい、さっさと会社に行くぞ」

「……はい」


改札口の方に足を向ける橘部長。
相変わらずの無表情だったけど……。
でも……助けてくれたんだよね……?