素直になりたくて~メイクに恋してあなたを愛す~

「これは俺が預かって置く。まぁ返す事はないがな」


そう言いながら橘部長は乱暴に紙をポケットにしまうと別の紙を私に握らせた。
それを見れば可愛い文字で【連絡待ってます!】と書かれていた。
明らかに女の子の字、と……いう事はさっきの女の店員さんが橘部長に渡していた紙だろう。
何故これを私に?疑問に思っていれば橘部長は私から視線を外しながら言葉を放った。


「代わりにこれはお前が預かっといてくれ」

「え……?」

「……これは上司命令だ。異論は認めない」


“上司命令”。その言葉を彼の口から聞いたのは初めてだった。

別に男の店員さんの連絡先が欲しい訳じゃないし、女の店員さんの連絡先が私の手元にあるって事は橘部長が彼女に連絡する事もない。
むしろ私にとっては嬉しい事だ。

そう思い頷けば、橘部長は満足そうに笑みを浮かべ私から手を離した。
そして私に背を向けた歩き出す。


その顔を見て思ったんだ。
もしかして、橘部長は嫉妬してくれたんじゃないかって。

都合のいい考えかもしれないけど、他に答えが浮かばない。

私が男の店員さんから連絡先を貰っているのを見て、少しでも気にかけてくれたのだとしたら……。
すごく嬉しい、思わず顔が緩みかけた時、橘部長は振り返り私を見た。


「何をしている、行くぞ」


少し紅く染まった彼の顔を見た瞬間に私の顔は完全に緩んだ。
幸せな気持ちと一緒に私は橘部長の元に駆けよる。


「橘部長!お待たせしました!」

「何をニヤついているんだ」

「何でもありません!」


橘部長の隣で一緒に歩き始める。
私の緩んだ顔を見た橘部長は呆れていたけど、そんな事は気にしない。


男の店員さんや、女の店員さんには凄く申し訳ないけど私は今凄く幸せだ。